「やっと出てくのか?」
愛刀を探して案内させた部屋で、所長の男が静かに聞いた。
案内させたのは隣の房の看守で、もちろん力ずくだったが、堂々とした脱獄囚にフランキーと名乗った所長はとくに慌てた様子も見せずゾロに座るように促した。
質素な所長室にある来客用のソファを、ゾロはちらりと見ただけで刀を返せと要求する。
応じないかと思ったフランキーは、意外にもあっさりと立ち上がりあきらかに特別に思われるロッカーの鍵をあけ、中からゾロの刀を取り出してテーブルの上に置いた。
「お前の助けた村……、じいさんが嘆願しに来てったぞ」
わざわざこんなところまで、と肩を竦めるフランキーに、ゾロも同じように肩を竦める。
人助けは単なるついでだったが、そのついでがなければさすがに軍に喧嘩を売ることはなかっただろう。
力を嵩にきてのやりたい放題。恐喝に無銭飲食、強姦まがいのことまでやっていた小さな村の駐屯地。
気に入らなかったから叩き斬った。
別に感謝などいらないが、義理堅いことだな、と思う。
脱獄を見過ごすらしいフランキーも、いい度胸をしている。
刀を受け取り踵を返すと、背後から声が飛んだ。
「港に船がある。おれ様が作ったスーパーな船だ。そいつに乗ってけ」
「そこまでやっていいのか?」
肩越しに振り返って聞くと、不始末の落とし前だとフランキーは鼻を鳴らした。
所長命令でもあったか、港までの道のりは実にスムーズなものだった。
抱えている麻袋の中身が何なのかを知れば、こうはいかなかっただろうに。
ゾロを見張っていたはずのウソップがいないことを不審に思わなかったのか。
それとも、そこにも何らかの思惑があるのか。
小さいながらも部屋もある船のボンクに、麻袋に入れて連れてきたウソップを横たえる。
冷え切った体を毛布で包み、手の甲で頬をなぞった。
出港してしまえば海の上に二人きりだ。
追いかけてくるように、と思ったがどうにも置いてこれなかった。
「強姦に誘拐たぁ、立派な犯罪者だな」
それにゾロを駆り立てたウソップは、まだ青白い顔で気を失ったままでいる。
目を覚ましたら卒倒するか、罵るか。
当分どころか、ゾロが死ぬまで……死んでも憎まれそうだが、それもいい。
どうせ当てのない船旅だ。
まずは体からでもじっくり口説けばいいと、ゾロは小さな北の港を後にした。
END
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